CCD素子の構造

2は、フルフレーム型のCCD素子のアーキテクチャーを示します。矢印は電荷の転送の状態を示します。電荷を輸送するために、素子上にあるGate(電極)をスイッチングして電子をシフトレジスタに輸送し、シフトレジスタは外部に電荷を出力します。

3ピクセルの構造を示したものです。3フェイズの素子は、1つのピクセルを3つの電極により形成します。

4は、CCD素子の断層図です。CCDのピクセルは、電極、酸化シリコン、シリコン層から形成されます。光は、ポロシリコン電極、酸化シリコン層を通り、ポテンシャルウェル層に蓄電されます。

1.    検出器の性能を決める項目

どのような特性が、極微弱光を測定するのに考慮しなければならないか、また、良い検出器とは、どのような検出器なのでしょうか。

  • 量子効率:光電面で光が電子(pe-)に変換される効率(% mA/W)。波長によって変換効率は変わる。
  • 感度:アナログデジタル変換後に、1pe-がいくらになるかを表わす。(カウント/pe-
  • 素子数:CCDの素子の数、例えば、横576×縦384であれば221,184素子になる。
  • 素子の大きさ:CCDの素子の大きさ、通常20μm×20μm程度
  • 位置分解能:非常に微小な光スポットをCCDに当てた時の信号のにじみ。(FWHMの素子数で表わす)
  • 幾何学的歪:縦、軸に並んでいる素子がどのくらい歪んでいるかを素子数で表わす。
  • リードアウトノイズ:CCD素子の電荷を読み出す時に発生するノイズ。カウント数又は電荷数で表わす。CCD素子内部、制御系のアナログ回路、アナログ・デジタル変換器内部で発生するノイズのトータル。
  • ホトカソードノイズ:光電面の熱雑音。光がまったく当たっていないのに発生するノイズ。カウント数又は電荷数で表わす。
  • ダークチャージ:CCDの光電面の下にある井戸(Well)に発生する暗電流。カウント数又は電荷数で表わす。
  • リニアリティー:光強度とそれに伴う出力値の直線性。誤差を(%)で表わす。
  • 感度の一様性:CCDの光電面に一様な光を当てたときに出力値がどのように変動するかを平均値と標準偏差の比で表わす。
  • 制御温度:CCDの冷却温度。℃で表わす。
  • 温度安定性:設定した冷却温度と実際の温度との違い。℃で表わす。
  • ゲート幅:素子にかけるシャッタースピード。nsecで表わす。

良い検出器とは、以下のようなものです。

1.    量子効率が高い。

2.    ダイナミックレンジが高い。

3.    リードアウトノイズが低い。

4.    ダークチャージが低い。

5.    感度が高い。

6.    素子が大きい。(位置分解能とトレードオフ)

7.    位置分解能が小さい。(感度、S・Nとトレードオフ)

この他にも、先に示した項目について考慮しなくてはなりません。これらの項目が明示されていると、使用する検出器が、どのくらいのSN比で測定できるか見積もることができます。通常、上の条件がよければよいほど検出器の値段は高いようですので、測定対象の光の質から、検出器の種類を決めて行くことが必要となります。良すぎるものは必要なく、悪いものでは、データは取れません。

次に、以上の項目の数値を用いて、SN比を例を用いて考えてみます。

2.    S/Nの理論計算

CCD検出器の信号・雑音比は、次のような式にて、表わすことができます。

信号=量子効率×感度×ホトン数・・・・・・・・・・(1)

トータルノイズ=(Nr2+ND2+Nph21/2・・・・・・・(2)

Nr:リードアウトノイズ(カウント/スキャン)

ND:ダークチャージノイズ(カウント//素子)

Nph:ホトンショットノイズ(カウント)

1.    信号(SIGNAL

光検出器に入射した光は、パソコンのCRT上に、数値として表わされます。この数値の意味が(1) で示されます。すなわち、信号は量子効率とホトン数と感度の積になります。

1 信号の見積り

1秒間に1ホトンの光がCCDに当たっており、1000秒間CCDを露光させたとします。量子効率が40%、感度が0.1カウント/pe-とすると、

信号=0.4×0.1×1ホトン/sec×1000sec=40

CRT上に40カウントの信号が表示されます。

2.    ノイズ(Noise

CCD検出器のノイズは大きく分けると、リードアウトノイズ、ダークチャージノイズ、ホトンショットノイズです。トータルノイズは(2)で示されます。

a.    リードアウトノイズ

リードアウトノイズは、CCDから蓄積されている光電子を読み出す時に発生します。冷却型CCDのリードアウトノイズは、1回の読み出し(スキャン)に対して、4e-7e-程度になります。(最近、当社の1340シリーズは2e-に到達しました。)

一般的に、感度を4e-10e-/カウントに設定している理由は、リードアウトノイズの値からです。リードアウトノイズを小さくすればするほど、感度を高く設定でき、良い検出器になります。

リードアウトノイズの値から、CCD検出器の感度と検出限界の概算を求めることができます。仮にリードアウトノイズが10e-の場合を考えてみます。ノイズのピークトゥピーク値は、約30e-になります。これは、リードアウトノイズ値が標準偏差値を用いているためです。検出限界をSN比の3倍と仮定すると90e-の信号が検出限界となります。これは、CCDの量子効率を40%と考えた場合、225ホトンに相当します。CCDを使用する場合、225ホトンの光が光電面に当たるまで待たなくてはいけないということです。

リードアウトノイズが2e-のカメラと10e-のカメラの性能は、感度で5倍、ダイナミックレンジでも、同じウェルサイズが同じであれば、5倍になります。

b.    感度

検出システムの感度を上げるのは非常に簡単です。1カウント/pe-の感度の検出システムを100カウント/pe-の感度のシステムに改造する最も簡単で安上がりな方法は、パソコンにデータを取り込んだ後で、100を積算するのです。こうすれば、非常に簡単に超高感度システムは出来上がります。

しかし、この方法では、信号が100倍になるのと同じく、ノイズも100倍になり、SN比は変化なく、ダイナミックレンジもまったく同じです。

感度が高ければ、良い検出器とは云えません。ノイズを少なくすることで感度が高くなっていきます。

c.    ダイナミックレンジ

ダイナミックレンジは、CCD素子のウェルサイズとリードアウトノイズとの関係に依存します。ウェルサイズとは、CCD素子の中の1素子が保持できる電子の数です。例えば、ウェルサイズが500,000e-で、リードアウトノイズが10e-であれば、ダイナミックレンジは約50,000になります。ダイナミックレンジは、アナログ・デジタル変換機のビット数に代表されるカタログに記載されていますが、CCD自体のダイナミックレンジと、アナログ・デジタル変換機のビット数では、CCD自体のダイナミックレンジの方が大きくなくてはなりません。

このように、リードアウトノイズはCCD検出器の感度とダイナミックレンジと密接な関係を持っています。

d.    ダークチャージノイズ

ダークチャージノイズとは、CCD検出器に、まったく光を当てない状態で発生する電荷によるノイズです。CCD検出器は、ダークチャージノイズが非常に多く、これが、微弱光測定における最大のノイズになります。市販のビデオ用CCDカメラの感度・S/Nを向上できないのもこの理由からです。極微弱光を測定するには、液体窒素で-100-140℃に冷却し、ダークチャージを抑制します。この冷却のために、ダークチャージを10e-/時間/素子以下に抑えることができます。その結果、1時間くらいの蓄積時間では、ダークチャージノイズを無視することができます。

10秒から数分の露光時間で計測できるような比較的強い信号のときは、電子冷却素子を使用して、-60℃くらいに冷却できるCCD検出器があります。ダークチャージの量は、46℃の温度変化に2倍ずつ変化し、たいへん冷却温度に関係します。

e.    ホトンショットノイズ

ホトンショットノイズは、光電面で生まれる量子化雑音です。例えば、100pe-の信号が光電面で生まれると、この時のホトンショットノイズは(100e-1/2=10e-となります。

ノイズの少ない検出システムでは、ホトンショットノイズだけでS/Nが決まったときは、S/N=S/Sとなります。この状態はシステムノイズを無視でき、最良のS/Nになります。

f.     トータルノイズ

(2)を用いてトータルノイズとSN比を計算します。

トータルノイズ=(Nr2+ND2+Nph21/2

Nr=10e-/SCAN

ND=10e-/hour/素子×1000/3600×100素子1/2=16.6e-

Nph=1000秒×1ホトン×0.4QE))1/2=20e-

トータルノイズ=10e-2+16.6e-2+20e-21/2=27.8e-

感度が0.1カウント/pe-なのでトータルノイズ=2.78カウント
S/N=40/2.78=14.39
となります。



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